エンジンの不調や警告灯などの症状は出ていませんでした。
長いあいだ交換されていなかった燃料フィルターの、定期交換としての作業です。

エンジンの不調や警告灯などの症状は出ていませんでした。
長いあいだ交換されていなかった燃料フィルターの、定期交換としての作業です。
取り外したフィルターを、新品と並べてみたのがこちらです。

真っ黒です。
…と書くと大事件のようですが、正直なところ、ディーゼル車の燃料フィルターとしてはそこまで珍しい色ではありません。僕たちも見慣れています。ただ、新品と並べるとこれだけの差が出る、ということは知っておいていただけたらと思います。
なので今回は「こんなに汚れていました!」という話ではなく、普段まず目にすることのない燃料フィルターが、何をしていて、なぜ時期を決めて替えたほうがいいのかという話をさせてください。正直なところ、最近のディーゼル車は維持管理に少しトリッキーな一面があって、燃料フィルターはそのひとつです。
燃料フィルターは、タンクから送られてくる軽油の中の細かいゴミや水分をこし取る部品です。
今のディーゼルエンジンは、非常に高い圧力で燃料を細かく噴射する仕組みになっていて、その心臓部が高圧燃料ポンプとインジェクターです。どちらも非常に精密な部品なので、ほんのわずかな異物や水分でも嫌います。燃料フィルターは、その手前で燃料をきれいにしてくれる「門番」のような存在です。
ここは誤解のないようにお伝えしたいのですが、フィルターが黒くなっているからといって、必ずしも目詰まりしているわけではありません。燃料をこし続けていれば、ろ材の色はどうしても変わります。見た目だけで「もう限界だった」とは判断できません。
実際、今回の3008も、エンジンの不調や警告灯などの症状が出ていたわけではありません。あくまで「替える時期を過ぎていたので替えた」というお話です。
起こりうることは、大きく分けて2つあります。この2つは中身がまったく違うので、分けて考えるのがポイントです。
① 目詰まりで、燃料が足りなくなる
フィルターが詰まってくると、燃料が流れにくくなります。そうなると、加速したときに力が出ない、エンジンがかかりにくい、燃圧の異常で警告灯が点く、といった症状につながることがあります。燃料噴射装置メーカーのDelphi(デルファイ)も、始動不良の原因のひとつとして燃料フィルターの詰まりを挙げています。
② 汚れや水分が、精密部品まで届いてしまう
こちらのほうが厄介です。フィルターが本来の性能を保てなくなると、水分や細かな異物が高圧燃料ポンプやインジェクターまで届いてしまうおそれがあります。実際にBosch(ボッシュ)も、燃料中の水分がインジェクターの腐食の原因になること、硬い微粒子が部品を少しずつ削ってしまうことを、技術資料の中で指摘しています。
①は、フィルターを替えれば元に戻ることが多いトラブルです。一方で②は、部品が傷んでしまってからでは元に戻りません。場合によっては、高圧ポンプやインジェクターの交換といった高額な修理になることもあります。
怖がらせたいわけではありません。ただ、フィルター1本の交換を先延ばしにしたばかりに、その何倍もの修理費がかかってしまう。これは整備の現場では、わりとよく聞く話ですし、よく見る光景です。
エンジンオイルは量を見たり、交換のステッカーが貼ってあったりで、意識される機会が多い部品です。一方、燃料フィルターはボンネットを開けても目立たない場所にあり、オーナーさんが目にすることはまずありません。
また、車検や点検のメニューによっては燃料フィルターが含まれておらず、エンジンオイルなどの消耗品は替えていても、燃料フィルターだけはずっと手つかず、というケースも少なくありません。
そのため、オーナーさんが燃料フィルターの存在を知らない限り、交換時期を誰も把握していないまま、気づけば長いあいだ無交換、ということが起こりがちです。今回の3008も、まさにそのパターンでした。
燃料フィルターを新品に交換しました。
燃料フィルターの交換は、部品を替えて終わり、ではありません。

ちなみに3008のディーゼルは、燃料フィルター自体はエンジンルームの手前側にあって、作業はしやすい部類です。ただし油断は禁物で、外したボルトをうっかり落とすと、なぜかオルタネーターまわりの配線や部品が入り組んだところに、ピンポイントで吸い込まれていきます。そこからはフィルター交換ではなく「ボルト救出作業」の始まりです。
せっかくきれいにするための作業で、新しいトラブルを作ってしまっては本末転倒です。地味ですが、こういうところを丁寧にやるのが専門店の仕事だと思っています。
交換の目安は車種やエンジンの仕様によって異なり、メーカーが定める整備スケジュールがあります。そのうえで当店では、メーカーの推奨よりも早いですが、1年に1回の交換をおすすめしています。
先に正直に書いておくと、「メーカーより短い期間をすすめるなんて、整備工場が儲けたいだけでは?」と思われるかもしれません。その気持ちはよくわかります。
ただ、メーカーの交換時期は、基本的にヨーロッパでの使われ方を前提に決められています。長い距離を一定のペースで走ることが多い向こうに比べて、日本はストップ&ゴーが多く、近所まで走ってすぐエンジンを止める、という短距離の使い方もごく普通です。さらに、高温多湿の夏と冷え込む冬で、季節ごとの温度差も大きい。気温差が大きいと燃料タンクの中で結露が起きやすく、燃料に水分が混ざる原因にもなります。
エンジンオイルの交換を早めにおすすめしているのと同じ理由で、ヨーロッパ生まれの車にとって、日本の使われ方は決してやさしい環境ではないんです。
そのうえで、もうひとつの理由はお金の話です。燃料フィルターは種類にもよりますが、部品代で1万円しないくらい。一方で、最近の電子制御のディーゼルエンジンは本当に緻密で繊細で、高圧ポンプやインジェクターまわりのトラブルになると、修理代は桁が変わってきます。年に1回それくらいの出費で、そのリスクを少しでも減らせるなら、圧倒的に割がいい。そういう考えです。
特にディーゼル車はDPFやSCRなど、燃料系以外でのトラブルリスクも一定ありますので、大きな出費を抑えるためにも、細かい箇所からコツコツ抑えておくことが結果として安く維持できることにつながります。冒頭で「ディーゼル車は維持管理に少しトリッキーな一面がある」とお話ししたのは、そういう意味です。
実際、普段から当店で診させていただいているディーゼル車は、燃料系の大きなトラブルが少ない、というのが正直な実感です。もちろん、それがフィルター交換だけのおかげだと言い切るつもりはありません。ただ、少なくとも「やっておいて損はない」ということは、自信を持って言えます。
真っ黒なフィルターの写真はインパクトがありますが、お伝えしたいのは「黒いから危ない」ということではありません。普段見えない部品ほど、症状が出る前に、時期を決めて替えておく。それが結果的に、いちばん安く済む方法です。
「前回いつ替えたかわからない」という方は、車検や点検のついでに一度ご相談ください。
同じような症状でお困りの方は、お気軽にご相談ください。